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ここは朔が支配人を務める劇場《閑古鳥の啼く朝に》のサロンです。上映案内から、日々のつれづれ事まで。          のんびりまったり更新中。renewal:07/05/02
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02
2011.01.02 (Sun)
「えー、そう言われてもねー」
『どうして私たちが支配人の尻拭いをせねばならぬのだ』
「そういえばね、僕たちの前作にあたる第2部のサクラお姉ちゃんたちが、第3部の前振りするくらいなら第2部をはやく終了させろって怒ってたよ」
『もっともだな』
「んー、それについては支配人も申し訳ないって言ってた。えーと、サクラお姉ちゃんたちのお話が異界の再封印のところまでだっけ?」
『そうだな。そしてそこからフィンデル・ファロスは徐々にフィングレアをトップとした一大国家へとまとまっていくようだ』
「えー、それじゃああのヴィレイムって人が考えてたような、政教一致の体制になるってこと?」
『それは第2部を最後まで見れば分かる』
「そっかー。それで僕たちの物語は、フィンデル・ファロスが1つの国にまとまってしばらく経ってからが舞台なんだよね」
『そうらしいな』
「第3部のテーマは神代への回帰って聞いてるんだけど……?」
『そう聞いているな』
「どういう意味なんだろうね?」
『さぁな』
「ちょっとー、ディー、それじゃあ紹介にならないよー」
『あのな。だからどうして私がこのような真似をしなくてはならぬのだ』
「えー。でも……」
『おまえもな、頼まれたからと言ってバカ正直にやってやる必要はないのだぞ』
「…………」
『……』
「……っ」
『何故泣く!?』
「…っ……ふぇ、」

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01
2011.01.02 (Sun)
「…あれ? これ本番もう始まってるの?」
『のようだな』
「えー、どうしよう。困ったな。何をしゃべればいいの?」
『適当に自己紹介でもしておけばいいのではないか』
「あ、そっかー。じゃあまず僕からね。僕の名前はエニシヤ。親しい友達にはエニーって呼ばれてるよ。特技は友達を作ること。みんな、よろしくね」
『……』
「(ちょっと、次、自己紹介だよ)」
『……D.D.B.だ』
「えー、いきなりそこから言っちゃう? 」
『何か不満か』
「だってそれって、とっぷしーくれっと、ってやつじゃないの?」
『知ったことか。そもそも序盤で知らされる事項がトップシークレットだと?』
「あ、そっかー」
『だいたいにして、私が何者であるかはこの先行上演会で明らかにされるはずだったのに、あの朔とかいう阿呆が、』
「わー、それ言っちゃあ支配人涙目だよ」
『知ったことか』
「でもさー。僕もわくわくしながら出番待ってたのに、結局出られなくてちょっと残念」
『創造神による世界創造からはじまってエルフまで導入を繋いだのに、出てきたのはその対極の存在である私だったからな』
「そうそう。いかに支配人が何も考えずにGOサイン出したかが分かるよね~」
『ふん』
「あ、何か紙が回ってきたよ。えーと、……先行上映だけじゃ説明不足だったところを補っておいてほしい、だって」
『ちっ、都合の良いことを』

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2011.01.01 (Sat)
「……なんだ、」
 一拍あけてソリュートが応じると、子どもは「あどけない」と形容するにはほど遠い笑みを浮かべて振り返った。
「一度礼を言おうと思っていた。よくぞ放り出さずここまで育ててくれた。人間にしてはなかなか見所がある」
 子どもは立ち上がり、ソリュートを真っ直ぐに見上げる。
 青玉色の瞳に移り込む自分の姿を確認し、ソリュートはふむ、と顎を一撫でした。
 と、子どもの視線がついと動き、それに合わせて小さなてのひらも動いた。
 何かを手招きするように手をひらめかせるが、ソリュートの目には何も映らない。
 子どもは細い腕で輪をつくると、何かを抱き寄せるようにそこへ頬ずりした。
「……何がそこにいる?」
 ソリュートの問いに子どもは答えず、笑みを閃かせた。
「おまえが知る必要はない」
 ふぅ、と小さく息を吐くと、ソリュートはやれやれと首を横に振った。
「それで、おまえの正体は一体何なのだ」
 直球でそう尋ねる。
 しかし返ってきたのは必ずしも直球ではなかった。
「おまえの想像している通りだと思うが?」
「ほぅ?」
 おもしろがるように片眉を上げたソリュートを見上げ、子どもまた口元だけで笑みを形作った。
「しかし、仮にも今は私の息子なのだ。それらしく振る舞ってくれ」
「分かってるよ、お父様」
 トリアスはそう言うと、にっこりと無邪気に笑ってみせたのだった。

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2011.01.01 (Sat)
 知的好奇心に駆られて引き取った赤子であったが、普段のソリュートが研究に忙しいことに変わりはない。
 使用人たちに任せきりにしているうちに月日はあっという間に過ぎ、久々にソリュートの意識が我が子に向いたとき、それは実に誕生から5年の月日が経っていた。
 トリアスの所在を使用人に訊き、子供部屋を訪れたソリュートは、驚きに目をみはった。
 家庭教師について勉強をしている我が子の姿は、ソリュートのかすかな記憶の中にあるものとはまったく異なっていた。
 髪の色はありふれた栗色に、瞳の色は青玉色に。
 一見するとごく普通の子どもに見える。
 でも、だからこそそれはとても不自然だった。
 しばらく黙って授業風景を見学した後、一礼と共に教師が去ると、ソリュートは用心深く子どもの背後から近付いた。
 形の良い頭を細いさらさらの髪が包み、華奢な首筋といい丸みを帯びた肩のラインといい、見た目はあどけない5歳児そのものだ。
 好奇心を抑えきれず、右手をその後頭部に伸ばそうとした時、
「ソリュート、」
 先に話しかけてきたのは、依然前を向いたままの子どもの方だった。

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2011.01.01 (Sat)
 いや、待て。
 ソリュートはそれまでの知識を総動員して考えを改めた。
 今よりずっと昔、まだフィンデル・ファロスと異界がつながっていた頃、稀に人間の中にも黒髪や黒瞳を持って生まれる者がいたという。
「たしか、リッタ・ハースは魔属だったと……」
 ソリュートは口の中で呟き、ふむ、と片手を顎に当てて考え込む姿勢となった。
 そんな主の姿に使用人たちは顔を見合わせるが、そんなものを気にするソリュートではない。
「これも一種の先祖返りか……?」
 魔族と人間の混血児は魔属と呼ばれ、特に魔族の血が濃く表れた者の中には黒髪、黒瞳を有する者も生まれたという。
 ソリュート・ハースの遠い先祖であるリッタ・ハースの容姿に関する記述は伝わっていないが、魔属であったことは書物に明記されていた。
 いや、しかし妻の懐妊は自分にとっては何も預かり知らぬことで……。
 なれば必然的に、この赤子がハース家の血を引いているはずもなく……。
 しかしこの髪、瞳の色は……
 そう考え込むソリュートの耳に、か細い声が届いた。
「……して、」
 ん?と思い視線を転じると、枕に顔を埋めるようにして泣いていた妻が濡れた面を上げていた。
「殺して下さい……っ」
 か細く囁かれたその言葉に、ぎょっと半歩後ずさったのは使用人たちだけだった。
 ソリュートは冷えた眼差しで妻である女を見下ろす。
「もう私を殺して下さいっ。これ以上の恥辱には耐えられません……!」
 妻の目は生まれたばかりの我が子をこの世の汚辱という汚辱、あらゆるけがれの権化であるかのように拒絶の目でもって睨んでいた。
 ソリュートは妻と赤子を静かに何度か見比べた後、手を伸ばして産婆から赤子を受け取った。
 そしてきびすを返して廊下へ向かいながら、
「妻は産後の疲れで体調が思わしくないようだ。落ち着くまで実家に戻すのが良いだろう」
 とだけ言った。
 赤子はトリアスと名付けられ、ハース家の嫡男として大切に養育された。
 その後トリアスがよちよち歩きをはじめ、言葉をしゃべりはじめても妻が実家から帰ってくることはなかった。

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