ここは朔が支配人を務める劇場《閑古鳥の啼く朝に》のサロンです。上映案内から、日々のつれづれ事まで。 のんびりまったり更新中。renewal:07/05/02
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未熟児として生まれた赤子は、トリアス・ハーンと名付けられた。
トリアスが生まれた日のことを、ソリュートは今でも昨日のことのように覚えている。
ちょうどその日は公休日で、しかし学長に休む暇などなく、自宅の書斎に籠もって書物の山に囲まれていた時のことだ。
突如として屋敷の中に身の毛もよだつような悲鳴が響きわたった。
続けて廊下を慌ただしく行き来する足音が続き、眉を顰めているうちに書斎の扉をノックする音が。
「旦那様、ご子息の誕生でございます」
使用人からそう告げられて、そういえばもうそんな時節か、と気付く。
約1年前に見合い結婚をした妻とは反りが合わず、新婚当初から別居状態だ。
ソリュートは若い頃から仕事が恋人というような男であったし、妻の方は日がな1日窓辺に座って刺繍をしているような女であった。
どちらも自分から積極的にコミュニケーションを取りに行くタイプではなく、夫婦となっても顔すら合わせない日が1週間続くこともざら。
そんな時の妻の懐妊だった。
ソリュート自身に身に覚えはなくとも、不貞を働くような妻でないことも分かっている。
結局何の話し合いの場も設けないまま、うやむやのうちに今日の日を迎えたのであった。
それにしても、先程の悲鳴は何事か。
義務感半分、好奇心もう半分、残りはかすかな苛立ちを感じながら妻の主寝室を訪れると、そこには寝台を取り囲むようにして棒立ちになっている使用人たちの姿があった。
「何事だ」
仮初めにも後継ぎ誕生の瞬間に立ち会ったというような喜びや興奮といった様子ではない。
部屋には重苦しい沈黙が幾重にも折り重なり、時折漏れ聞こえてくるすすり泣くような声は、赤子ではなく初産を終えたばかりの妻のものだった。
トリアスが生まれた日のことを、ソリュートは今でも昨日のことのように覚えている。
ちょうどその日は公休日で、しかし学長に休む暇などなく、自宅の書斎に籠もって書物の山に囲まれていた時のことだ。
突如として屋敷の中に身の毛もよだつような悲鳴が響きわたった。
続けて廊下を慌ただしく行き来する足音が続き、眉を顰めているうちに書斎の扉をノックする音が。
「旦那様、ご子息の誕生でございます」
使用人からそう告げられて、そういえばもうそんな時節か、と気付く。
約1年前に見合い結婚をした妻とは反りが合わず、新婚当初から別居状態だ。
ソリュートは若い頃から仕事が恋人というような男であったし、妻の方は日がな1日窓辺に座って刺繍をしているような女であった。
どちらも自分から積極的にコミュニケーションを取りに行くタイプではなく、夫婦となっても顔すら合わせない日が1週間続くこともざら。
そんな時の妻の懐妊だった。
ソリュート自身に身に覚えはなくとも、不貞を働くような妻でないことも分かっている。
結局何の話し合いの場も設けないまま、うやむやのうちに今日の日を迎えたのであった。
それにしても、先程の悲鳴は何事か。
義務感半分、好奇心もう半分、残りはかすかな苛立ちを感じながら妻の主寝室を訪れると、そこには寝台を取り囲むようにして棒立ちになっている使用人たちの姿があった。
「何事だ」
仮初めにも後継ぎ誕生の瞬間に立ち会ったというような喜びや興奮といった様子ではない。
部屋には重苦しい沈黙が幾重にも折り重なり、時折漏れ聞こえてくるすすり泣くような声は、赤子ではなく初産を終えたばかりの妻のものだった。
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